岩井事務所だより11月号は「税務調査のポイント」です。
事業者の法人税・所得税は、納税者自身が管轄の税務署へ申告を行い税額を確定させ、この税額を自ら納付する申告納税制度が採用されています。しかし、誤った申告があると納税者間に課税の不公平が生じるため、税務調査による納税義務の適正な履行が必要となります。
この趣旨を理解して、次に掲げる〝税務調査ポイント〟の指摘を受けないように適正な申告納税に努めましょう。
Ⅰ 主要な税務調査ポイント
事業者を対象とした税務調査で指摘される課税漏れの原因は、大きく「売上除外」「棚卸除外」「経費の仮装」に集約されると言われています。具体的には、以下の項目がチェックされます。
なお、これらが故意に行われたものかどうかを判別し、仮装・隠ぺいされた事実が明らかな場合には、国税通則法第六十八条に定める重加算税の対象となります。
① 現金管理状況
現金出納帳と実際の現金残高が一致しているか、どんぶり勘定になっていないか。
どんぶり勘定が必ず引き起こすものは「勘定合って銭足らず」です。法人の場合、現金不足は役員賞与と認定されることもあるので要注意です。
② 現金の流れと管理状況
どのような取引先からどのような方法で受発注し、納品、決済しているか。特に「どうやって受注し、どうやって商品やサービスを提供し、どうやって入金するか」といったお金の流れは深く質問されます。
取引の把握漏れがないように自主点検をしましょう。
③ 売上繰り延べ
税務上、売上の計上時期は原則として「商品を引き渡したとき」や「サービスを提供したとき」となっており、「入金時」や「請求書発行時」ではありません。この点を誤ると「売上計上漏れ」で追徴税額が生じます。
④ 自家消費分の計上漏れ
自家用に使える商品を消費した場合、その分の売上計上が漏れていないか。特に飲食業や工務店等は注意が必要です。
⑤ 棚卸計上漏れ
棚卸在庫を過小に見積もっていないか。そのための帳票類を誤っていないか。
在庫商品では、期末の在庫を減らせばその分利益が減るため、調査時に重要視されます。期末一カ月以内くらいに仕入れた全商品が、どうなっているかをサンプリングして追跡調査する手法で確認されます。
⑥ 帳票類の整合性
見積書、請求書、納品書、領収書がすべて揃っているか。不自然な日付や金額の記載がないか。自然な流れで恣意的な操作の可能性がチェックされます。
⑦ 修繕費と資本的支出との区分
多額の修繕費が計上されている場合、「原状回復」を超えて対象物の価値が増していないか。ここは、判断の難しい問題です。
⑧ 私的費用の経費計上
事業と関係のない、代表者の私的な費用を計上していないか。
個人的な支出と判断された場合には、その支出が社長への役員賞与とされ全額経費に計上できなくなるばかりか、社長の役員賞与に対する源泉所得税の徴収漏れの扱いとなり、二重課税されます。
さらに、交際費として消費税の課税仕入れとなっていたものも、賞与扱いにより仕入税額控除が認められず、その分の消費税を支払うことになります。
⑨ 代表者による不正蓄財
代表者が、本人または家族の名義で不正な蓄財を行っていないか。会社の調査でも不審なケースがある場合は、個人の預貯金まで調べられます。
⑩ 人件費の管理状況
従業員の源泉徴収漏れや、架空の人件費計上はないか。
特に給料を現金で支給していたり、履歴書を保存していなかったりすると疑いを持たれますので、しっかり管理しましょう。
⑪ 消費税の課税仕入額
消費税の課税仕入額に非課税分が含まれていないか。
また、書類の保存がない場合にも仕入税額控除が受けられないので、保存状況も確認しておきましょう。
⑫ 消費税の不正還付
虚偽の申告により、不正な消費税の還付を受けていないか。
⑬ 収入印紙の未貼付
収入印紙の貼り忘れなどによって、印紙税の未納付はないか。
印紙税をその課税文書作成時までに納付しなかった場合には、過怠税がかかります。その金額は、原則としてその納付すべき印紙税額の三倍( 最低額一千円)とされています。
ただし、自主的にその不納付を申し出るなど一定の要件を満たせば、不納付税額の一・一倍とされます。また、消印をしなかった場合にも、印紙税額と同額の過怠税が徴収されます。
なお、印紙税は原則、税法上の費用(損金)となりますが、過怠税は費用とすることができませんので、注意が必要です。
Ⅱ 最近の税務調査の傾向
国税庁では近年、実地調査に当たって、「海外取引」「消費税」「無所得申告」「無申告」の四つについて、重点的に取り組んでいるようです。
① 海外取引を通じて不正に税逃れが行われないようにする。
② 消費税については、不正還付等がないように厳しく管理をする。
③ 無所得申告については、調査の七割から申告漏れが把握されたという実績もあり、調査対象とする。
④ 無申告法人については、重点的に取組む。
また、電子メールのやり取りも税務調査の対象となっていますので、留意しておきましょう。
平成29年度税制改正で焦点となる所得税の抜本的な改革について、政府・与党が先送りする検討に入ったことが5日、分かりました。
「配偶者控除」の見直しでは、当初、有力とされた妻の収入を問わず適用する「夫婦控除」に踏み込まず、現行制度の適用対象を見直す方向で調整するようです。
安倍晋三首相が衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測が浮上する中、増税世帯が多くなる改革への慎重論が与党内で強まっていることを踏まえた対応です。
消費税10%引き上げのときもそうでしたが、選挙のたびに増税案が先送りになります。
今回はさらに配偶者控除の適用拡大という減税案まで検討しているようですが、財源の見通しは立っているのでしょうか。
政府は30日、見直し議論を進めている配偶者控除の適用対象を平成29年度改正で拡大する方向で検討に入りました。
「103万円」以下としている配偶者の年収要件を「150万円」まで引き上げ、働く女性を後押しする方向です。
税収減を抑えるため、高所得者らへの増税で財源を賄うことを検討しています。
配偶者控除を廃止したうえで働き方を問わず適用される「夫婦控除」を創設する案は、当面見送るとのことです。
先日まで配偶者控除については「廃止」が検討されていたにもかかわらず、真逆の「拡大」で驚きました。
結局のところ、不足する財源は所得税の税率引き上げで補填するようです。
平成27年に所得税の最高税率が40%から45%(住民税を含めると55%)に引き上げられたばかりであるのに、再度の増税となると、富裕層、特に日本を引っ張っているビジネス・リーダーが海外へ流出する可能性があります。
遺産相続の際、相続人の受け取り分を決める「遺産分割」の対象に預貯金が含まれるかが争われた裁判で、最高裁大法廷は19日、当事者双方の意見を聞く弁論を開きました。
最高裁は年内にも判断を示す見通しで、これまで「預貯金は対象外」としてきた判例を変更するとみられます。
従来から実際上は、不動産を相続しない代わりに預貯金を多く受け取って取り分を調整するというように、相続人全員の同意があれば預貯金も協議の対象とされてきました。
問題となるのは、協議がまとまらず、家裁に審判が申し立てられた場合です。
家裁が判例通りに判断すると、預貯金は分割手続きから除外されるため、生前贈与を受けた相続人などが優遇される事態が起きていました。
最高裁は「預貯金は必ず遺産分割の対象になる」との判断を下すのではないかと考えられます。
ただ、遺産分割協議が整うまで故人の預金が引き出せないとなると、故人の配偶者が当面の生活費や葬儀代の支払いに窮することが想定されるので、速やかな立法が望まれます。
相続法の見直しを検討する法制審議会の部会は18日、遺産分割時の配偶者の法定相続分を現行の2分の1から「3分の2」に引き上げることなどを柱とした中間試案について、「試案のままで議論を進めるのは困難」との意見で一致しました。
同審議会は今後、試案の修正か、代案を検討します。
6月にとりまとめた中間試案では、配偶者の相続分を(1)結婚後に相続財産が一定以上増加した(2)婚姻期間が長期だったなどの場合に増加させるものでした。
しかし、意見公募の結果、(1)について「婚姻後の財産増加額の算定を巡って相続の紛争が複雑化する」、(2)について「夫婦関係が破綻して、配偶者の貢献が認められない場合でも相続分が増加し、公平を害する」など、いずれも反対意見が多数だったとのことです。
税理士界からも(1)については、相続財産の棚卸しに時間がかかるため、申告期限10ヶ月に間に合わないといった声がありました。
(2)についても、いくら長期婚姻だとしても感覚的に3分の2は多すぎて、かえって紛争を招きそうです。
なかなか世論の賛同を得ることは難しいかと思います。
平成28年10月以降に提出する相続税申告書の被相続人のマイナンバー(個人番号)の記載が不要になりました。
従来から「故人から相続開始後に個人番号の提供を受けることはできない」「相続開始前に相続税の申告の為にあらかじめ個人番号の提供を受けておくことは親族間であっても抵抗がある」 などの意見が多く寄せられていたようです。
そこで、税務署としても故人のマイナンバーを入手することが難しいことについて理解を示し、平成28年9月30日に「相続税の申告書への被相続人の個人番号の記載に係る取扱いの変更について」のお知らせを発表し、被相続人のマイナンバーの記載を不要としました。
相続税申告時の資料収集が一つ減ることにはなりましたが、相変わらず「相続人」のマイナンバーの記載は必要です。
今後もマイナンバーの呪縛から逃れられませんので、適正な申告を心掛けましょう。
租税条約に基づく「共通報告基準」により、平成29年1月1日以後に新規開設した海外の口座情報について、100以上の国との自動的情報交換制度が開始されます。
具体的には、平成29年1月1日から銀行、証券会社などの金融機関で新規の口座開設をする場合に、氏名、住所などを新規届出書に記載することを求められ、それらの口座残高、利子・配当金額が国税庁に集約された後に、租税条約締結国へ自動的に情報提供されることになります。
居住者・非居住者(自国人・外国人)にかかわらず、平成29年1月1日以後の新規口座開設について新規届出書の記載が必要なようです。
ただし、金融機関が国税庁へ報告するのは、非居住者(自国の外国人)の情報だけとなります。
今回の自動的情報交換制度は平成29年1月1日以後の新規開設口座についての適用となっていますが、平成28年12月31日以前に開設した口座についても、平成30年12月31日までに情報を特定することになっています。
相続税対策を称して海外口座の開設を促された方も多いかと思いますが、今後はたとえ口座が海外にあったとしてもこの自動的情報交換制度により丸裸にされることでしょう。
また、容易に海外口座の残高が把握できるようになりますので、国外財産調書の提出洩れも指摘されるようになるかと思います。
提出義務があるにもかかわらず、国外財産調書を提出していない場合には、懲役刑などの罰則もありますので、注意が必要です。
無年金の人を救済するため、年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案が21日、今国会で成立する見通しとなりました。
成立すれば、来年10月にも約64万人が新たに年金を受け取れるようになります。
しかしながら、当てにしていた消費税増税が延期されたため、恒久財源の確保に不安が残ります。
また、受給資格期間10年の場合の年金額は月額1万6000円程度で、救済するには力不足です。
抜本的な法改正が必要となるでしょう。
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