岩井事務所だより10月号は「平成30年度改正 所得税改正のポイント」です。
平成30年度税制改正では、前年度改正での配偶者控除・配偶者特別控除に続く個人所得課税の見直しとして、給与所得控除や公的年金等控除、基礎控除など広範囲にわたる見直しが行われました。
適用は、所得税が平成32年(2020年)分、個人住民税は平成33年(2021年)度分からとされていますが、企業の経営者や経理担当者としては、改正時点で一度整理しておきたいところですので、以下、説明します。
【改正の概要】
1 給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替
近年、特定の企業等に属さずフリーランスとして仕事をしたり、子育てしながら在宅で仕事を請け負う、高齢者が長年培った能力や経験を活かし起業支援等の形で活躍するなど“働き方の多様化”が進んでいます。これを踏まえ、様々な形で働く人を応援する等の観点から、特定の収入にのみ適用される「給与所得控除」及び「公的年金等控除」の控除額を一律10万円引き下げる一方、「基礎控除」の控除額を同額の10万円引き上げます。
また、給与所得と年金所得の双方を有する場合の負担増に対応するため、片方に係る控除のみが減額される措置が設けられています。
2 給与所得控除の見直し
給与所得控除については、実額の勤務関連経費や諸外国の水準と比べても過大となっているとの指摘があることから、近年、段階的に上限が引き下げられています。今回もこの方針に沿って、一律10万円引き下げとは別に高所得者の給与所得控除の上限が引き下げられます。
具体的には、給与所得控除の上限が適用される給与等の収入金額の水準が改正前の1,000万円から850万円となり、その上限額は220万円から195万円となります(図1)。
これにより、給与等の収入金額が850万円を超える者については税負担が増加することになりますが、この場合でも子育てや介護に対して配慮する観点から、23歳未満や特別障害者である扶養親族等を有する者等に負担増とならないよう調整する措置が講じられています。
なお、見直しに伴い給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表、年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表等が変更されます。
3 公的年金等控除の見直し
公的年金等控除は、給与所得控除とは異なり控除額に上限がないことから、年金以外の所得がいくら高額でも年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるため、高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとの指摘がありました。そこで、一律10万円引き下げとは別に世代内・世代間の公平性を確保する観点から、年金以外に高額の収入がある者については、公的年金等控除を引き下げるとともに、控除額の上限が設定されました。
具体的には、公的年金等収入が1,000万円を超える場合は、控除額に195万5,000円の上限が設けられました。
また、公的年金等以外の所得金額が1,000万円超の場合には、控除額を10万円引き下げ、2,000万円超の場合には控除額を20万円引き下げることとされました(図2)。
4 基礎控除の見直し
基礎控除は、所得の多寡によらず一定金額を所得から控除するものですが、高所得者にまで税負担の軽減効果を及ぼす必要性は乏しいのではないかとの指摘がなされてきました。
改正では、これを踏まえ合計所得金額2,400万円超から控除額が逓減し、2,500万円超で消失する仕組みに見直されました(図3)。
なお、今回の見直しを踏まえて、年末調整で基礎控除の適用を受ける場合は、合計所得金額の見積額などを記載した「給与所得者の基礎控除申告書」の提出が必要となります。
5 基礎控除の引上げと給与所得控除の引下げに伴う所要の改正
基礎控除の引上げと給与所得控除の引下げに伴い、基礎控除と給与所得控除の金額等を踏まえて設定されている配偶者控除や扶養控除、雑損控除等の金額要件等が改正されました。
公認会計士・税理士・社会保険労務士
岩井事務所だより9月号は「平成30年度改正 中小企業関連のポイント」です。
平成30年度税制改正では、資産税で話題となるものが多くありますが、中小企業等にとって知っておきたい項目の創設や見直し等もありますので、以下、整理してみます。
1.所得拡大促進税制の見直し
(1) 制度の趣旨
従業員にとって、給与等が増えることは一番の喜びです。また、企業にとっても従業員が給与等の増加により、これまで以上に意欲的に仕事に取り組んでくれることで、企業利益にも大きな影響を与えることができます。
平成30年度税制改正では、持続的な賃上げを促す観点から、賃上げの一定割合について減税する措置の見直し(給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除の整備)が図られました(図表1)。
(2) 制度の概要
◯ 要件等
青色申告書を提出する中小企業者等が、国内雇用者(役員やその親族は除かれます)に対して給与等を支給する場合において、継続雇用者給与等の支給額が前年の継続雇用者給与等支給額に対し1.5%以上増加したときは、給与等支給増加額の15%の税額控除ができます。
すなわち、前事業年度から当事業年度まで継続雇用している従業員に対して支給した給与等の合計額が対前年比1.5%増であれば増加した給与等の合計額の15%が減税されることになります。
◯ 上乗せ措置
さらに高い賃上げ(2.5%以上)を行い、かつ、教育訓練費の増加(1.1倍)等の要件を満たす場合には、減税額も10%増加します。前期に教育訓練費がゼロであっても当期に教育訓練費を支出していれば、上乗せ措置の適用が可能ですので、従業員の給与等を2.5%以上増加と教育訓練費の支出により、さらなる減税が可能となります。
◯ 適用時期
平成30年4月1日から平成33年3月31日までに開始する各事業年度。
2.中小企業の設備投資に係る 固定資産税特例措置の創設
中小企業の生産性革命の実現に向け、生産性向上特別措置法において市町村の認定を受けた中小企業者等の生産や販売活動に使用されるなどの以下の要件を満たす一定の機械装置や器具備品などについて、固定資産税の課税標準を3年間、市町村の定めによりゼロから2分の1までの範囲で軽減する措置が講じられています。
◯ 適用要件
① 中小企業が商工会議所等と連携して策定・申請した新規設備投資に係る計画が、市町村等が策定した導入促進基本計画に合致又は認定されること
② 導入により、労働生産性が年平均3%以上向上する設備投資であること
③ 生産・販売活動等の用に供される、企業の収益向上に直接つながる新たな設備投資であること(単純な更新投資は除かれます)
◯ 対象設備
生産性向上に資する指標が旧モデル比で年平均1%以上向上する次の設備
・機械装置(最低取得価格160万円以上/販売開始時期10年以内)
・測定工具及び検査工具(同30万円以上/同5年以内)
・器具備品(同30万円以上/同6年以内)
・建物附属設備(同60万円以上/同14年以内)
◯ 適用時期
生産性向上特別措置法の施行日(平成30年6月6日)から平成33年3月31日まで。
3.交際費課税の特例延長
交際費等の損金不算入制度及び交際費となる飲食費の50%(中小法人の場合は交際費のうち800万円までのいずれか)損金算入を認める特例措置の適用期限が、平成32年3月31日までに開始する事業年度まで2年延長されました。
4.少額減価償却資産の即時償却の延長
中小企業者等が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した際に、一定の要件の下で合計300万円まで全額損金算入(即時償却)を認める「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」措置の適用期限が2年延長(平成32年3月31日までに取得等をして事業の用に供した資産について適用)されました。
5.法人税申告書等の代表者及び経理担当者の自署押印制度の廃止
申告手続の電子化促進のための環境整備として、法人税、地方法人税、法人事業税及び地方法人特別税の申告書について代表者及び経理責任者等の自署押印制度が、平成30年4月決算法人から廃止されています。
6.不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置
印紙税法別表第一第一号文書の不動産の譲渡に関する契約書及び同表第二号文書の建設工事請負契約書の印紙税軽減に係る特例措置の適用期限が、平成32年3月31日まで2年間延長されました(図表2)。
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岩井事務所だより8月号は「地積規模の大きな宅地の評価のポイント」です。
平成30年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与から、宅地の評価方法として「地積規模の大きな宅地の評価」が適用され、従来の「広大地の評価」は廃止となっています。
土地所有者の中には、相続税等に大きな影響を受けるケースもありますので、ここで整理してみます。
1 制度の目的
広大地とは、その地域における標準的な宅地に比べて著しく地積が広大な宅地のことで、その評価は戸建て分譲を行う場合に道路・公園等の負担が必要であることなどを考慮して、面積が広くなるほど評価額が減額されていました。
しかし、これまでの広大地の評価方法では、土地の形状により、それを加味して決まる取引価格と相続税評価額が大きく乖離している事例が多く発生したため、29年度税制改正大綱で広大地評価について、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法への見直しや適用要件の明確化が盛り込まれ、29年10月に国税庁が財産評価基本通達を見直しました。
2 地積規模の大きな宅地の評価の概要
(1) 地積規模の大きな宅地とは
三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。
しかし、以下の宅地については、適用対象から除かれます。
① 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4 条第 12 項に規定する開発行為を行うことができる区域を除く)に所在する宅地
② 都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
③ 指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地
④ 評価通達22−2に定める大規模工場用地
(2) 対象となる宅地
地積規模の大きな宅地の評価の対象となる宅地は、路線価地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地のうち、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に所在するものとなります。
倍率地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地に該当する宅地であれば対象となります。
なお、市街地農地等について、地積規模の大きな宅地の評価の適用要件を満たす場合には、宅地への転用をするには多額の造成費を要するため、経済合理性の観点から転用が見込めない場合等を除き、適用対象となります(市街地周辺農地、市街地山林及び市街地原野も同様)。ただし、路線価地域にあっては、宅地の場合と同様に、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に所在するものに限られます。
3 評価方法
(1) 路線価地域に所在する場合
路線価に奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価します。
評価額=路線価×奥行価格補正率×不整形地補正率などの各種画地補正率×規模格差補正率×地積(㎡)
(2) 倍率地域に所在する場合
次の①の価額と②の価額のいずれか低い価額で評価します。
① その宅地の固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した価額
② その宅地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額に、普通住宅地区の奥行価格補正率、不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額
(3) 規模格差補正率
規模格差補正率は、下の算式によって計算します。
規模格差補正率 =(Ⓐ×Ⓑ+Ⓒ)/地積規模の大きな宅地の地積(Ⓐ)×0.8
注 上記算式により計算した規模格差補正率は、小数点以下第二位未満を切り捨てる。
算式中の「Ⓑ」及び「Ⓒ」は、地積規模の大きな宅地の所在する地域に応じて、それぞれ次に掲げる図表1のとおりです。
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岩井事務所だより7月号は「改正事業承継税制のポイント」です。
1 創設の背景
中小企業経営者の高齢化が進み、今後5年間で30万人以上が70歳(平均引退年齢)を超える一方、その半数以上の経営者が事業承継の準備を終えていません。事業承継の円滑な実施は、事業が継続されることによる雇用の維持に加え、休廃業企業のうち一定数は経常利益が黒字であること等も踏まえると、地域経済の維持・活力向上の観点でも極めて重要です。
そこで、平成30年度税制改正では、事業を譲り受けたり相続した後継者が、その会社を経営していく場合には、後継者が納付すべき相続税や贈与税のうち、その相続・贈与のあった非上場株式等(一定の部分)に係る相続税・贈与税の納税が猶予され、一定の場合には免除される「事業承継税制」について、これまでの措置に加え、税負担の軽減や、雇用継続・事業継続等の各種要件を見直すことで、中小企業経営者の事業承継をより一層後押しし、事業の継続・発展を通じた地域経済・雇用の維持・活性化を図る「事業承継税制の特例」が10年間の時限措置として創設されました。
2 特例の内容
この特例(特例措置)は、平成30年4月1日後5年以内に、事業後継者や承継時までの経営見通し等が記載された特例承継計画の作成を行うなど一定の要件の下、相続・贈与による事業承継を行う場合に、既存の事業承継税制(一般措置)に代えて適用することができます(図表1参照)。
(1) 猶予対象株式の制限の撤廃
一般措置では、納税猶予の対象となるのは総株式の最大3分の2までですが、特例措置では全株式が対象となります。
(2) 納税猶予割合の引上げ
一般措置では、相続した株式等に係る猶予割合は80%ですが、特例措置ではこれが100%に拡大されています。
(3) 雇用確保要件の弾力化
一般措置では、承継後5年間平均で雇用の8割を維持する要件(雇用確保要件)を満たせなかった場合には猶予された贈与税・相続税を全額納付する必要があります。しかし、特例措置では、雇用確保要件を満たさない場合でも、その満たせない理由を記載した書類(認定経営革新等支援機関の意見が記載されているもの)を都道府県に提出することで、納税猶予が継続されます。
(4) 複数の後継者への贈与・相続に対象を拡大
従来、代表権を有する又は有していた先代経営者から一人の後継者への承継が対象でしたが、特例措置では、中小企業経営の実情に合わせた多様な事業承継を行えるようにするため、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継が可能となりました。なお、一般措置でも、複数の株主からの承継については可能となりました。
(5) 経営環境の変化に対応した減免制度の創設
一般措置では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価をもとに贈与税等を納税するため、過大な税負担が生じるケースがありました。
特例措置では、特例経営承継期間経過後に、過去3年間のうち2年以上赤字の場合など、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合に特例措置の適用に係る非上場株式等の譲渡等をした場合には、その対価の額(相続税評価額の5割が下限)を基に相続(贈与)税額等を再計算し、再計算した税額と直前配当等の金額との合計額が当初の納税猶予額を下回る場合には、その差額が免除されます。
3 適用要件
特例を適用するためには、先代経営者、後継者、会社に次のような要件が必要です(図表2参照)。
また、認定経営革新等支援機関の所見を記載した特例承継計画の提出が必要となります。同支援機関としては、税理士、商工会議所、金融機関、民間コンサルティング等がありますが、税理士が約4分の3を占めています。
4 適用期日
この特例は、平成30年1月1日から39年12月31日までの間に贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されます。
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岩井事務所だより6月号は「経済的利益の課否判断」です。
会社が使用人や役員に何らかの経済的利益を与える場合に、その取扱いが現物給与に当たるか迷うことがあります。
そこで、今回はよくあるケースをQ&Aも交えて整理してみます。
1.永年勤続者の記念品等
会社が永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品を支給することによりその役員又は使用人が受ける経済的利益については、一定の要件のもとに課税しなくて差し支えないものとされます(図表1)。
なお、永年勤続記念品等として、旅行ギフト券を支給する場合がありますが、一般に、旅行ギフト券は有効期限もなく、所定の手数料を支払えば換金が自由であり、実質的に金銭を支給したのと同様であることから、原則として、給与等として課税されます。
ただし、その旅行ギフト券を交付してから相当の期間内(おおむね1 年程度)に旅行をし旅行代金の精算を行い、その旅行の事実を確認できる書類を備えている場合など旅行に招待したものと実質的に変わりがない場合については、課税しないで差し支えないこととされています。
Q1 使用人のうち勤続20 年以上の永年勤続者に対して、次のようなものを支給した場合、給与として課税されますか。
① 永年勤続者のうち勤続20 年に達した者には2 泊3日(10 万円程度)、勤続25 年に達した者には4 泊5日(18 万円程度)でいずれも夫婦での国内旅行をさせ、その費用を会社が旅行会社へ直接支払った場合
② 勤続25 年の永年勤続者のうち、旅行に参加しない1 名に、旅行の代りに35 万円の絵画を支給した場合
A1 ①については、社会通念上相当なものと判断され、かつ会社がその費用を直接支払っていることから、課税しなくて差し支えありません。
一方、②については、まず均一の表彰という観点から外れてしまい、勤続25 年の永年勤続者が受ける4 泊5 日の招待旅行費用と比較しても相当多額であり、また、社会通念上相当な金額を超えるものと判断されますので、35 万円全額が給与として源泉徴収の対象となります。
2.創業記念品等
会社が役員又は使用人に対して創業記念、増資記念、工事完成記念又は合併記念等に際し、その記念として支給する記念品は、一定の要件に該当すれば、課税しなくて差し支えないものとされています(図表2)。
なお、図表2の⑤の処分見込価額により評価した金額が1 万円以下かどうかの判定は、処分見込価額から消費税及び地方消費税の額を除いた金額で行います。
ただし、建築業者、造船業者等が請負工事又は造船の完成等に際し支給するものについては、給与等として課税されます。
Q2 当社は、本年で創立30 年になります。これを記念して全社員に記念品を贈りたいと考えていますが、どのような取扱いになりますか。また、取引先にも記念品を贈るとどうなりますか。
A2 会社の何周年記念等における記念品の費用は、原則として交際費等の金額に含まれるものとして取り扱われますが、社外でなく使用人等に対するものは原則として給与として取り扱われます。
ただし、図表2で源泉所得税が課税されない場合には、福利厚生費になります。
3.値引販売
会社が役員又は使用人に対し自己の取り扱う商品、製品等(有価証券及び食事を除く。)の値引販売をすることにより供与する経済的利益で図表3に示す要件を満たすものは、課税しなくて差し支えないものとされています。
なお、高額な商品、例えば不動産などについては、次の理由から値引販売の対象とはされません。
① 所得税法における課税されない経済的利益の取扱いは、少額不追及という考え方が根底にあり、経済的利益が著しく高額となるものについては、この趣旨を逸脱すること
② 課税されないための要件に「家事使用程度の数量であること」とあるように、通常家事に使用される物を対象としており、不動産等はこの範囲から外れると認められること
公認会計士・税理士・社会保険労務士
岩井事務所だより5月号は「家族信託の活用法」です。
相続対策における財産管理の手法として、「家族信託(民事信託)」が最近注目されてきています。平成18 年に信託法が大幅改正されて使い勝手が良くなっているのですが、まだ知らない方も多いので、以下、ポイントを整理してみます。
1 家族信託(民事信託)
信託は、大きく商事信託と民事信託に分かれます。
商事信託は、投資信託が該当し、不特定多数の委託者から財産を信託銀行(受託者)が預かり、それを運用して受益者(=委託者)に分配するものです。
受託者は営利目的であり、信託報酬をもらって業務を行います。しかし、信託会社(信託銀行)は、通常個人の自宅を信託財産として受託したりしないので、家族信託のニーズに応えられないところがあります。
民事信託の中で家族・親族が中心となる民事信託のことを通称で「家族信託」と呼んでいます。
家族信託は、委託者が受託者に財産を移転し、受託者が一定の目的に従って財産を受益者(相続人等)のために管理・運用・処分するものです。基本的には非営利であり、無報酬です(契約で報酬を与えることは自由)。受託者には判断力のある個人、若しくは営利目的以外の法人がなることができます。
2 家族信託の必要性
次のようなものがあります。
(1) 高齢者の健康不安
健康寿命と平均寿命の差は約10 年あり、その間に認知症などで意思判断能力を喪失すると、財産の管理や処分などが原則的にできなくなるので、担保しておきたい。
(2) 成年後見制度では不満
成年後見制度は、意思判断能力が無くなった方の代わりに、裁判所が指定した家族または弁護士・司法書士などが代理として財産管理を行う制度です。
しかし、基本的に財産の現状維持が目的ですので、古くなった自宅を建て替えたり、賃貸物件をより収益性の高いものに買い替えるなど自由度の高い活用ができません。
また、職業後見人又は後見監督人への報酬が必要で、本人が亡くなるまで継続的に運営コストがかかります。
3 家族信託の仕組み
家族信託の仕組みは図表1のようになりますが、若干補足します。
① 委託者・・・財産の管理・運用の指示をした人で「父母」が多いです。
② 受託者・・・委託財産を実際に管理・運用する人で、委託者が信頼をおいている「家族・親族」がほとんどです。
③ 受益者・・・信託により利益を受ける人で「本人」の場合が多いです。
④ 信託監督人・・・受託者がきちんと業務を行うか心配な時は、第三者を信託監督人として指定しておき、受託者の業務を監督させます。
4 家族信託が適している場合の例
(1) 認知症への備え
認知症はその予備軍を合わせると約862 万人。高齢者人口の約4 分の1 になるといわれています。どの家族でもその可能性はあり、本人の判断能力が低下すると、資産が凍結されてしまうので、対策として有効。
(2) 遺言代用
遺言書の作成と思っても厳格な基準に面倒さを感じている場合、家族信託であれば、委託者と受託者との契約で行えるので便利。
(3) 受益者連続機能
最初の受益者(一次受益者)を自分とし、自分が亡くなった後の受益者(二次受益者)を息子、息子が亡くなった後の受益者(三次受益者)を孫、孫が亡くなった後の受益者(四次受益者)を、まだ生まれていないひ孫というように、亡くなった後の受益者を次から次へと指定できます。
このように、遺言より自由度が高く活用できます。
(4) 障害のある子への対処
障害があって自分では財産管理ができない子供がいる場合、親が委託者となり信頼できる親戚を受託者にしておくことで、障害を持った子供が受益者として守られます。
5 家族信託の機能
家族信託契約は、図表2 のように「委任」「成年後見制度」「遺言」の3 つの機能が入っています。
6 デメリット
(1) 節税対策にはならない
信託契約は相続とは全く別の枠組みであり、相続対策として効果的ですが、節税対策にはなりません。
(2) 受託者を誰にするかで揉める可能性がある
家族信託は、財産を適切に管理・処分できて、かつ信頼できる家族(親族)がいるかどうかが大きなポイントになります。信頼して任せたのに管理がずさんだと、相続人の中から不満の声が上がり、トラブルになる可能性があります。
7 信託の税務上の取扱い
(1) 所得税
信託においては、受益者が信託財産を保有していると考えますので、その収入も受益者に帰属します。
例えば、賃貸物件を持っている父親が「委託者」となり、長男を「受託者」とする信託契約を結び、引き続き「受益者」は父親とした場合、その家賃収入は父親のものとなり、従来どおり所得税の申告をする必要があります。
(2) 固定資産税
固定資産税は、台帳課税主義のため、名義が移転したら受託者が納税義務者となります。受託者は預かっている受益者の財産(信託財産)から納税額を支払うことになります。
(3) 相続税
信託を行っても相続税評価額には影響がありません。
(4) 贈与税
委託者と受益者が異なる場合を「他益信託」といい、贈与税がかかります。
例えば、委託者は「父親」、受託者は「息子」、受益者が「母親」というケースです。この場合には、信託契約を締結した時点で父親から母親に財産権が移転したとみなされて、贈与税がかかります。
岩井事務所だより4月号は「効果的な福利厚生費の事例 損金となるポイントは?」です。
福利厚生費とは、職場で人が快適に働くための環境作りの費用であり、やる気を高めるためにとても重要です。
その福利厚生費の損金となるポイントは、全社員が公平に利用できることと、常識の範囲内の支給であることです。社員の一部のみを対象としたレクリエーションや社員旅行、高額な海外旅行などは、参加社員に対する給与として取り扱われ、課税される可能性が高いので注意が必要です。
以下、福利厚生費として計上できる事例を列挙していきますので、参考にしてください。
1 制服代
会社が制服を着用させるための費用は、条件を満たせば福利厚生費となります。
〈制服費用の要件〉
・会社内での着用を想定し、通勤や社外で着用しないもの
・社名や会社のロゴマークが入っているもの
・制服として明らかに従業員であることがわかるようなもの
例……事務服や、現場作業員が着用する特殊なものなどが該当
2 通勤費
役員・従業員に支給する通勤費は、限度額までは所得税が非課税となります。
なお、自宅から会社までの交通費は「福利厚生費」、会社以外の取引先などへの移動費用は「旅費交通費」というのが本来の考え方です。
3 レクリエーション費用
忘年会、新年会、歓送迎会などのレクリエーション費用は、福利厚生費として計上できます。
〈費用となる条件〉
・全社員を対象とすること(ただし、やむを得ない事情で参加できない場合を除く)
・会社の費用負担が「一律」であること
・会社が負担する金額が社会通念上からみて高額でないこと
なお、前記の要件を満たす場合であっても社員に現金で支給すると、給与として課税対象となるので注意が必要です。
4 社員旅行
社員旅行は、次の要件を満たせば福利厚生費として計上できます。
〈社員旅行の要件〉
・旅行期間が4 泊5 日以内であること
・旅行の参加人数が全体人数の50%以上であること
・旅行の参加者が役員だけでないこと
・自己都合で旅行に参加しなかった人に現金を支給しないこと
・取引先との接待旅行でないこと
5 慶弔見舞金
従業員や役員に対して、お祝いやお葬式などで一定の基準に従って支給される金銭は、福利厚生費となります。
例……結婚祝、出産祝、見舞金、香典、お祝いの品、花輪代等
なお、金額は、支給を受ける役員・従業員の地位などに照らして社会通念上妥当と認められるものであれば課税されません。
6 健康診断費用
役員や従業員を対象とした健康診断費用や人間ドックの費用については、原則として福利厚生費として処理できます。
ただし、次の要件があります。
〈健康診断費用の要件〉
・全役員・従業員を健康診断の対象とすること
・健康診断を受けた全員分の費用を会社が負担すること
・健康管理上必要とされる程度の常識の範囲内の費用であること
費用については、会社が直接診療機関に支払いをする必要があり、会社がお金を社員に渡して、社員が自分で診療機関に支払う場合は、福利厚生費には該当せず、給与として課税されるので、注意が必要です。
7 食事代の補助(残業食事代など)
役員や従業員に支給する食事は、次の二つの要件をいずれも満たしていれば、福利厚生費として計上できます。
〈食事代の補助の要件〉
① 役員や従業員が、食事の金額の半分以上を負担していること(残業や宿日直除く)
② 会社負担額が1 カ月当たり3,500 円(税抜き)以下であること
前記要件を満たしていなければ、会社負担分は給与として課税されます。
また、深夜勤務者に対し夜食の支給ができないため、現金で1 食当たり300 円(税抜き)以下の金額を支給する場合は福利厚生費として計上できます。なお、残業や宿日直を行う時に支給する食事は、無料で支給しても給与として課税されません。
8 会社の常備薬
常備薬を会社で購入した場合は、福利厚生費として計上できます。ただし、福利厚生費は、全社員に公平であることが求められますので、風邪薬や頭痛薬、マスクなどは認められますが、一部の社員にしか該当しないような薬は認められません。
9 社宅
取扱いが、従業員と役員で異なります。
(1) 従業員の場合
会社が従業員に提供する社宅については、一定の方法で計算した賃貸料相当額の50%以上の金額を従業員から受け取った場合、会社負担額は福利厚生費になります。
しかし、従業員から受け取った家賃の額が賃貸料相当額の50%未満である場合は、その受け取った家賃と賃貸料相当額との差額は給与となります。
例……賃貸料相当額が1 万円の場合
・従業員に無償で貸与する場合には、1 万円が給与として課税されます。
・従業員から6,000 円の家賃を受け取る場合には、50%以上となりますので、差額は給与とはされず、福利厚生費となります。
(2) 役員の場合
役員に提供する社宅については、賃貸料相当額を役員から徴収した場合、給与として課税されず福利厚生費になります。
しかし、役員から徴収した家賃が賃貸料相当額未満である場合には、その徴収した家賃と賃貸料相当額との差額は給与となります。賃貸料相当額は、貸与する社宅の床面積により、小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分けて計算されます。ただし、この社宅が社会通念上一般に貸与されている社宅と認められない、いわゆる豪華な社宅である場合は、時価(実勢価額)が賃貸料相当額になります。
10 保養所
保養所の購入や、リゾートクラブの会員権などは、要件を満たせば福利厚生費として計上できるものがあります。
〈保養所の要件〉
・経済的利益が多額でないこと
・役員だけを対象としていないこと
保養所の運営費と、利用者の実際の負担金額との差が多額である場合は、その差額分が給与とみなされます。また、実際の利用者が、役員のみであった場合にも給与とされます。
岩井事務所だより3月号は「平成30年度 税制改正(案)のポイント」です。
平成30年度税制改正では、多様な働き方に対応するとともに、年収850万円を超える会社員や公務員等の所得税が増税されます。
住民税を払っている人すべてに課す「森林環境税」と、出国時に1,000円を徴収する「国際観光旅客税」の2つの新税も導入される等、個人の増税が目立っています。
以下、主な改正項目のポイントを整理してみます。
Ⅰ 個人所得課税
1 給与所得控除
控除額が一律10万円引き下げられます。給与所得控除の上限額が適用される給与等の収入金額が850万円、上限額が195万円に引き下げられます。
2 公的年金等控除
控除額が一律10万円引き下げられます。公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額については、195万5,000円の上限が設けられます。
3 基礎控除
控除額が一律10万円引き上げられます。合計所得金額が2,400万円を超える個人については、その合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超えると基礎控除の適用がなくなります。
4 所得金額調整控除
その年の給与等の収入金額が850万円を超える居住者で、特別障害者に該当する者または年齢23 歳未満の扶養親族を有する者もしくは特別障害者である同一生計配偶者もしくは扶養親族を有する者の総所得金額を計算する場合には、給与等の収入金額(その給与等の収入金額が1,000万円を超える場合には1,000万円)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額が、給与所得の金額から控除されます。
Ⅱ 資産課税
1 事業承継税制の特例の創設
(図表1参照)
2 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し
(1) いわゆる「家なき子特例」の要件の厳格化
持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の特例の対象者の範囲から、次に掲げる者が除外されます。
① 相続開始前3年以内に、その者の三親等内の親族またはその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
② 相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者
(2) 貸付事業用宅地等の範囲から相続開始前3年以内に貸付事業の用に供されていた宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者がその貸付事業の用に供しているものを除く)が除外されます。
Ⅲ 法人税関係
賃上げ・生産性向上のための税制
(図表2参照)
Ⅳ 新税
1 国際観光旅客税
(図表3参照)
2 森林環境税
(図表3参照)
Ⅴ 納税環境整備
申告手続きの電子化促進のための環境整備
大企業の法人税・消費税・法人住民税・法人事業税の申告書の提出は、電子申告によることが義務付けられます。
岩井事務所だより2月号は「平成29年分 確定申告のポイント」です。
所得税の確定申告時期となりました。還付申告は既に1 月から始まっていますが、納付額のある人については、2 月16 日から3 月15 日までとなります。以下、平成29 年分確定申告のポイントを整理してみます。
1 確定申告の対象者
●確定申告をしなければならない人(主な例)
①個人で事業を行っており納税額がある、②不動産収入がある人で納税額がある、③給与が年間2 千万円を超える、④二か所以上から給与をもらっている、⑤同族会社の役員等で、その会社に不動産や事業資金を貸し付け、使用料・利息を受け取っている、⑥平成29 年中に土地等の譲渡があった、⑦給与所得者で給与以外の所得金額が20 万円を超える
●所得税の還付が受けられる人(主な例)
雑損控除、医療費控除、寄附金控除、配当控除、住宅ローン控除等を受ける人
2 平成29 年分の留意点【既存住宅のリフォームに係る特例措置】
次の増改築をした居住用家屋を平成29 年4 月1 日以後に自己の居住の用に供する場合に適用されます。
(1) ローンを利用した場合
特定の省エネ改修工事と併せて行う以下の一定の耐久性向上改修工事が追加されています。
ア ①小屋裏、②外壁、③浴室・脱衣室、④土台・軸組等、⑤床下、⑥基礎若しくは⑦地盤に関する劣化対策工事又は⑧給排水管若しくは給湯管に関する維持管理若しくは更新を容易にするための工事で、次のイ〜オの要件を満たすもの。
イ 増築、改築、大規模な修繕若しくは模様替え又は一室の床若しくは壁の全部について行う修繕若しくは模様替等。
ウ 認定を受けた長期優良住宅建築等計画に基づくもの。
エ 改修部位の劣化対策並びに維持管理及び更新の容易性が、いずれも増改築による長期優良住宅の認定基準に新たに適合する。
オ 工事費用(補助金等の交付がある場合には、当該補助金等の額を控除した後の金額)の合計額が50 万円を超える。
〔控除額〕
◎一定の耐久性向上改修工事+特定の省エネ改修工事…最大控除額62.5 万円(5 年間)
(2) 自己資金を利用した場合
次の一定の耐久性向上改修工事で、耐震改修工事又は省エネ改修工事と併せて行うものが追加されています。
ア (1)のアと同じ工事で、次のイ〜エの要件を満たすもの。
イ 認定を受けた長期優良住宅建築等計画に基づくもの。
ウ 改修部位の劣化対策並びに維持管理及び更新の容易性が、いずれも増改築による長期優良住宅の認定基準に新たに適合する。
エ 工事種類ごとの標準的な工事費用の額に工事箇所数等を乗じた金額(補助金等の交付がある場合には、当該補助金等の額を控除した後の金額)が50 万円を超える。
〔控除額〕
◎一定の耐久性向上改修工事+(耐震改修工事又は省エネ改修工事)…最大控除額25 万円(35 万円※)
◎一定の耐久性向上改修工事+耐震改修工事+省エネ改修工事…最大控除額50 万円(60 万円※)
※ 省エネ改修工事と併せて太陽光発電装置を設置する場合には、最大控除額が10 万円ずつ上乗せされます。
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
岩井事務所だより1月号は「平成29年分 医療費控除のポイント」です。
医療費控除が改正され、平成29年分から適用されます。
医療費控除は、還付申告の中でも適用の多い控除であることから、今回はその改正について確認していきます。改正点は、次の3点となります。
① 医療費控除は、明細書を作成して提出すれば、領収書の提出が不要となりました。
なお、医療費の領収書は、自宅で5年間保存する必要があり、税務署から求められた際には、提示又は提出しなければなりません。
② 従来の医療費控除については、医療保険者から交付を受けた医療費通知を添付すると、明細の記入が省略できます。
※ 医療費通知とは、健康保険組合等が発行する「医療費のお知らせ」等です。
③ 新しい医療費控除(セルフメディケーション税制)については、平成29年分から適用されるため、本年の確定申告が初めての実施となります。
以下、2 つの医療費控除について、新しい明細書とともにポイントを整理してみます。
1 従来の医療費控除
(ポイント)
医療費通知を添付する場合には、明細書の1の欄に、それ以外は2の欄に記入するように変更されています。
2 セルフメディケーション税制(新しい医療費控除)
(ポイント)
① この控除を受ける人は、従来の医療費控除を併用して受けることはできないので、控除額が8万8千円を超えるような場合には、従来の医療費控除を選択した方が有利です。
② 健康の保持増進及び疾病の予防として一定の取組を行う人が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る特定一般用医薬品等購入費を支払った場合に適用できます。
※ 特定一般用医薬品等購入費とは、医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)から薬局などで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費をいいます。
③ 一定の取組を行ったことを明らかにする書類としては、例えば次のような書類が必要です。
・ インフルエンザの予防接種又は定期予防接種の領収書等
・ 市町村のがん検診の領収書又は結果通知表
・ 職場で受けた定期健康診断の結果通知表
・ 人間ドックや、がん検診をはじめとする各種検診の領収書又は結果通知表
年末調整は、給与の支払者が給与の支払いを受ける1 人1 人について、毎月の給与や賞与などの支払の際に源泉徴収した税額と、その年の給与の総額について、納めなければならない税額(年税額)とを比べて、過不足を精算するものです。
◎ 平成29 年分の留意点
1 配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し
平成29 年度税制改正で配偶者控除及び配偶者特別控除の適用要件が大きく改正されていますが、適用時期は平成30 年分以後の所得税及び平成31 年度以降の住民税からとなりますので、本年は影響ありません。
2 マイナンバーの収集登録
年末調整のマイナンバー対応は平成28 年分から始まっていますが、本年は2 年目に入り、社会的に認知されてきているので、漏れなく実施したいものです。また、1 月の支払調書にもマイナンバーの記載が必要なので、昨年よりも精度を高めましょう。
マイナンバーを取得する際は、正しい番号であることの確認(番号確認)と身元確認が必要とされています。
本人確認は、原則として、
①個人番号カード(番号確認と身元確認)
②通知カード(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
③個人番号の記載された住民票の写しなど(番号確認)
と運転免許証など(身元確認)
のいずれかの方法で行います。
ただし、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかに判断できるときは身元確認のための書類の提示は不要とすることも認められています。
※従業員の扶養家族については、従業員が事業主に対してその扶養家族のマイナンバーの提供を行うこととされているため、従業員は個人番号関係事務実施者として、その扶養家族の本人確認を行う必要があります。この場合、事業主が、扶養家族の本人確認を行う必要はありません。
岩井事務所だより11月号は「老後の備え 年金?共済?NISA?」です。
老後の備え等に対する自助努力(資産形成)への主な支援措置の現状は、ほぼ次ページの図表のようになっています。
優先すべきものから各個人が自己チェックしてみることが大切なので、以下、ポイントを整理してみます。
Ⅰ 公的年金
年金制度は将来的に不安の声もありますが、次の点から第一に優先するメリットがあることは間違いありません。
① 日本年金機構という公的機関が取り仕切っており、国が破たんしない限り、制度は続きます。
② 民間の個人年金保険は、たとえば10 年というように期間限定で受け取るのが原則なのに対し、公的年金は終身年金のため、長生きすればするほど長く受給し続けられます(支払総額に対する返戻率がかなり高くなる)。
③ 公的年金は、半分を国が負担している上、支払った金額を全額所得控除できるので、個人年金保険に比べてかなり得になっています。
④ 公的年金加入時に事故に遭い、一定の障害認定を受けた場合には、障害年金が給付され、障害状態と認められている間は、生涯受給し続けることができます。
⑤ 公的年金に加入している間に自分が亡くなった場合で一定の要件に該当すれば、遺族年金が支給されます。
なお、国民年金(基礎年金)の給付額は、40 年支払って満額で年額78 万円程度のため、老後資金には不足すると思われますので、別の制度を付加することが重要となってきます。
Ⅱ 企業年金等
会社主導で確定給付企業年金、確定拠出年金(DC)に入っているか、個人で国民年金基金に入っていると、老後の年金が厚くなってきます。なお、平成28 年の確定拠出年金法改正により、企業年金加入者、公務員等共済加入者、第三号被保険者については、個人型DCへ加入できることとされました(平成29 年1 月1 日施行)。そして、全額所得控除できます。
Ⅲ 退職金共済
(1) 中小企業退職金共済制度
掛金は全額会社負担ですが、優れた人材の確保や、将来への安心感・より良い雇用の仕組みで従業員の意欲を引き出し、定着率を向上させるために効果的とされています。
(2) 小規模企業共済制度
個人事業主や常時使用する従業員の数が20 人以下の会社の役員等が、自分のために節税しながら退職金の積み立てができます。
メリットは、次のとおりです。
① 掛金は、全額所得控除で大きな節税ができる。
② 共済金の受け取りは、一括・分割・併用の3 タイプから選べ、年金の補完としても使えます。
③ 一括受取りは、退職所得扱いになり、税制上優遇されています。
④ 災害時や緊急時には、低利な事業資金の借入れも可能です。
(1)、(2)とも全額損金算入や所得控除ができ、税制上優遇されています。
Ⅳ 投資・貯蓄促進
Ⅰ〜Ⅲを優先して、さらに老後資金の上積みを図るには、自己負担ですが、次のようなものがあります。
(1) 財形住宅・年金貯蓄
「財形住宅貯蓄」と「財形年金貯蓄」を合わせて貯蓄残高550 万円までは、利子等に税金がかからずに貯蓄ができます。
(2) 障害者等マル優(非課税貯蓄)
預貯金や国債・地方債などの利子は、原則としてその支払いの際に、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率を乗じて算出した所得税等が源泉徴収されますが、次の障害者等は非課税とされています。
国内に住所のある個人で、①身体障害者手帳の交付を受けている者や障害年金を受けている者、②遺族年金や寡婦年金を受けているなど一定の要件を満たす者
(3) 個人年金
個人年金は、私的年金の一つで、公的年金の不足を補うために個人が任意で加入します。
貯蓄型と保険型に大別され、貯蓄型は預け入れた元本と利息を原資として、10 年、15 年などの一定期間、年金として支払いを受けるもので、元本を据え置くタイプと取り崩すタイプがあり、主として銀行、信託銀行、証券会社などで取り扱っています。
保険型は、主として生命保険会社、損害保険会社、ゆうちょ銀行、JA、全労済などが取り扱い、定額年金保険と変額年金保険に大別されます。
年金の受取方法によって、終身年金・保証期間付終身年金・夫婦年金・確定年金・有期年金・保証期間付有期年金などに分類されます。
(4) NISA・つみたてNISA
従来は、金融商品取引業者等に設けたNISA(少額投資非課税制度)口座で、年間の投資上限額(120 万円)まで、最長で5 年間、投資総額600 万円の上場有価証券や投資信託等の譲渡益や配当等が非課税となる制度です。
平成30 年から積立型の投資には利用しにくかった点を改正した「つみたてNISA」が創設されます。
年間投資上限額は40 万円ですが、非課税期間は最長20年であることから、最大投資額は800万円となり、長期・分散型投資のメリットが受けられます。
なお、従来型のNISAとの選択適用となります。
岩井事務所だより10月号は「平成29年度改正 設備投資減税のポイント」です。
平成二十九年度税制改正では、中小企業の設備投資減税について、次の制度が創設等されました。
1 中小企業経営強化税制の創設
(1) 従来との関係
中小企業投資促進税制の上乗せ措置(生産性向上設備等に係る即時償却等)が中小企業経営強化税制として改組され、一定の器具備品及び建物附属設備が対象に追加されています。
(2) 制度の概要
青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、平成二十九年四月一日から三十一年三月三十一日までの間に、特定経営力向上設備等(生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備及びソフトウエアで、経営力向上設備等に該当するもののうち、一定規模以上のもの)の取得等をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合には、即時償却又は取得価額の七%( 特定中小企業者等は一〇%)の税額控除との選択適用ができます。ただし、税額控除の額は当期の法人税額の二〇%を上限とし、控除限度超過額は一年間の繰越しができます。
(3) イメージ
次のようになります(セルフレジを新規取得した場合の例)。
【導入例】
経営力を向上させる設備としてセルフレジ(複数台合計で約一、五〇〇万円)を新規取得した場合
即時償却または税額控除が選択適用!
取得価額一、五〇〇万円全額を損金算入(即時償却)、または約一五〇万円(取得価額の一〇%)※ を法人税から控除できます。
※資本金三千万円超一億円以下の法人の場合は、約一〇五万円(取得価額の七%)
(4) 対象設備の拡充
平成二十九年度から対象設備が拡充されました(図表1、2参照)。
(5) 認定手続き
適用を受ける中小企業者等は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上させるための実施計画である「経営力向上計画」を事業分野別の担当窓口(経済産業局など)へ申請し、認定を受ける必要があります。
(6) 認定がない場合
中小企業等経営強化法の認定がなくても、機械装置等を導入した場合は、従来どおり中小企業投資促進税制により、取得価額の三〇%の特別償却又は七%の税額控除の選択適用(資本金三千万円超の法人には税額控除の適用なし)ができます。
2 固定資産税の特例
中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の設備を新規取得した場合、固定資産税が三年間にわたって二分の一に半減されます(図表3参照)。
3 地域未来投資促進税制の創設
地域の強み(技術・観光資源・農水産品等)を活かして地域活性化に貢献する先進的な事業について、工場・店舗や機械等を導入した場合、特別償却又は税額控除が選択適用できます(図表4参照)。
岩井事務所だより9月号は「非上場株式の評価見直しと自社株対策」です。
中小企業のオーナー経営者にとって自社の株式評価額というのは、とても重要な問題です。というのも、評価額が高くても他人に売却できないからです。つまり、自社株に多額の相続税が掛かるとしても、換金性が乏しい財産なので、生前の移転対策をしておいた方が良いケースが多くあります。
ところが、上場株式等には公表されている相場がありますが、非上場株式については、国税庁の通達に基づく評価となり、簡単ではありません。
この評価方法が、平成二十九年一月一日から大幅に変更されていますので、最近評価していない方は勿論、平成二十八年に評価された方であっても、新しい評価方法に基づく評価額を知って、自社株対策に役立てたいものです。
以下、ポイントを整理してみます。
1 非上場株式の評価方法
非上場株式は、財産評価基本通達で、その評価方法が定められており、原則的な評価方法は、次の二つです。
(1) 類似業種比準価額方式・・・類似業種の上場会社株価と比較し評価する方法(図表1)
(2) 純資産価額方式・・・評価会社の純資産の評価額にて評価をする方法(相続税法上の評価に置き換えた税務上の純資産)
そして、会社の規模等により「類似業種比準価額方式」で算出するか、「純資産価額方式」で算出するか、または一定比率で組み合わせて評価額を算定します(図表2)。
会社の規模は、従業員数、総資産価額、取引金額、業種に応じて、大会社、中会社、小会社に区分します(図表3)。このうち中会社はさらに、大、中、小に分かれるため、会社規模は五つに区分されます。
ただし、大会社、中会社でも、純資産価額方式の評価額の方が低い場合には、純資産価額を評価額とすることができます。
なお、従業員数が七〇人(改正前一〇〇人)以上であれば、無条件に大会社となります。
2 改正のポイント
(1) 類似業種比準価額方式の類似業種の株価に「相続等があった月以前二年間の平均株価」も適用できることとなり、上場企業の株価の急激な変動が、中小企業の株価に与える影響を小さくしています。
(2) 類似業種比準価額方式の分子である「配当・利益・純資産」の比重は、一対三対一で計算されていたものが、平成
二十九年から一対一対一となりました。
この改正により、利益の比重が「五分の三」から「三分の一」と小さくなり、利益が株価に与える影響が小さくなるので、所得の高い法人は従来より株価が低くなる反面、多額の損失を計上しても、以前ほど株価が下落しない可能性があります。
(3) 類似業種比準価額方式の適用における評価会社の規模区分の金額等の見直しにより、大会社及び中会社の適用範囲が総じて拡大されています。
改正により、より大きな会社区分に該当することとなれば、類似業種比準価額の割合が上昇し、時価純資産(含み益)が重い中会社の株価が低くなる可能性があります。
3 自社株対策
非上場株式の評価額が算出されたら、オーナーとして取るべき対策には、次のようなものがあります。
(1) 株価が低かった場合
悲観するのではなく、株式大幅移転のチャンスと考えて、後継者等への贈与や譲渡を検討してみましょう。
(2) 株価が高かった場合
何が原因で評価額が高くなっているのかを分析してみることが重要です。
類似業種比準価額が高い場合には、その算定根拠となる「一株当たりの年配当金額」、「一株当たりの年利益金額」、「一株当たりの純資産価額」の引き下げが可能か検討します。一般的に役員退職金の支払や含み損のある資産で売却可能なものがないか等の検討をする例が多いようです。
また、評価額が高くても、計画的に少しずつ贈与や譲渡を進めていくことが大切となります。
岩井事務所だより8月号は「パートの収入と課税・社会保険関係」です。
パート収入は給与所得とされますが、夫婦の可処分所得で考えた場合、一方のパート収入が年100万円を超えていくと、可処分所得がむしろ減少する場合があります。これは積年の問題とされていますが、就労調整対策という観点から、平成29年度税制改正では、配偶者控除・配偶者特別控除の見直しがされています。
以下、ポイントを整理してみます。
一 所得税の規定
1 パート収入に対する税
パート収入は、給与所得とされ、課税される所得は、パートの年収から給与所得控除(最低65万円)と基礎控除(38万円)などを差し引いた残額が対象となります。
つまり、103万円以下であれば所得税はかかりません。
2 配偶者にパート収入がある場合
夫が主たる所得者であり、妻がパートで働く場合を例に考えてみますと、平成29年までは、妻のパート収入が103万円までであれば、夫の所得に関係なく配偶者控除(38万円)が受けられます。
これが平成30年からは、次のように改正されます。
① 配偶者控除
控除対象配偶者又は老人控除対象配偶者を有する居住者に適用する配偶者控除について、担税力の調整の必要性の観点から、その居住者本人の所得に応じて制限が設けられます(図表1)。
そして、合計所得金額が1000万円を超える居住者については、配偶者控除が適用されないことになりました。
② 配偶者特別控除
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額は38万円超123万円以下(改正前38万円超76万円未満)とされます。つまり、給与所得だけの配偶者については、給与収入201万円(改正前141万円)までであれば、配偶者特別控除の対象となります。
そして38万円の控除額が適用される配偶者の給与収入の上限額が150万円に引き上げられます(図表2、3)。
また、配偶者控除と同様、配偶者特別控除についても、居住者本人の所得に応じて図表2に掲げる新たな制限が設けられます。そして、改正前のとおり、合計所得金額が1000万円を超える居住者については、配偶者特別控除の適用がありません。
※ 個人住民税の配偶者控除、配偶者特別控除でも、同様の措置が平成31年から実施されます。
二 住民税の規定
住民税の非課税限度額は35万円と所得税の基礎控除より3万円低いので、パート年収が100万円以下ですと、給与所得が35万円以下となり、住民税の所得割はかかりません(均等割は課税されることがあります)。
三 社会保険の規定
1 106万円の壁
平成28年10月より短時間労働者に対する厚生年金(社会保険)適用基準が緩和され、次の全ての基準を満たす場合、勤務先で社会保険に加入しなければならないことになり、手取り収入が減少する事態となりました。
① 労働時間が週20時間以上であること
② 1か月の賃金が8万8000円(年収106万円)以上であること
③ 勤務期間が1年以上見込まれること
④ 勤務先が従業員501人以上の会社であること
⑤ 学生でないこと
2 130万円の壁
前記④に該当しない中小企業に勤務する短時間労働者については、従来からの4分の3ルールが適用され一日8時間、月20日の勤務日数の場合、「週30時間以上労働、月15日以上労働」で社会保険に加入となります。この場合でも、年収130万円未満であれば扶養基準を満たすため、社会保険の「130万円の壁」と呼ばれています。
四 総合的検討
前記のほか、夫が会社員ですと、夫の会社の家族手当にも影響するので、家族手当の支給基準なども確認する必要があります。
いずれにしても、就業調整するかどうかは、職場や家族環境と経済的メリット等のバランスをとりながら検討することになります。
岩井事務所だより7月号は「住宅取得に係る税額控除の整理」です。
個人が、住宅の新築や購入又は増改築等を行った場合、一定の要件を満たす時には、5種類ある税額控除のいずれかを適用することによって、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から一定金額を控除することができます。
ただし、どの税額控除を適用するか判断が難しいところがありますので、今回はそのポイントを整理してみます。
1 税額控除の種類
個人が住宅に資金を投入した場合に適用できる税額控除には、次の5種類があります(図表1)
※「ローン型」と「自己資金型」の違いは、次のとおりです。
① ローン型
・一定の借入金等を利用している場合に受けることができます。なお、その償還期間又は賦払期間が10年(Bは5年)以上であることが必要です。
・各年の年末時点での借入金等の残高の合計額に一定割合を乗じて算出した金額を原則として10年間(Bは5年間)、その年分の所得税額から差し引くことができます。
(注) 借入金の借換えや繰上返済を行うことにより税額控除の適用要件を満たさなくなり、その後の年において税額控除
を受けられなくなる場合があります。
② 自己資金型
・借入金の利用の有無は問われません。
・それぞれの税額控除に応じた計算方法に沿って算出した金額を原則として居住の用に供した年(住宅耐震改修特別控
除の適用を受ける場合は、改修を行った年)に限り、その年分の所得税額から差し引くことができます。
2 住宅の取得等に係る税額控除の判定表
住宅の新築や購入をした場合は、「図表2」を、住宅の増改築等をした場合は「図表3」を参照し、対象となる税額控除を確認してください。
なお、複数の税額控除から一つを選択できる場合がありますが、いずれの税額控除が有利となるかは、毎年の所得金額や借入金等の年末残高などにより異なります。また、一度確定申告で選択した税額控除は、その後、更正の請求や修正申告により変更することができません。
3 控除額
A 借入金等の年末残高の合計額×1%=税額控除できる金額
B 特定増改築に係る借入金等の年末残高の合計額a×2%+(増改築等に係る借入金等の年末残高の合計額−a)×1%=税額控除できる金額
C 住宅耐震改修工事の標準的な費用の額×10%=税額控除できる金額
D 特定改修工事の標準的な費用の額×10%=税額控除できる金額
E 認定住宅の構造及び設備に係る標準的な費用の額×10%=税額控除できる金額
岩井事務所だより6月号は「保険の種類と課税・非課税」です。
保険には様々な種類があり、十分に理解しないまま加入しているケースも多いようです。
そこで、今回は保険の種類と税の課非区分を整理してみます。
Ⅰ 保険の分類と特徴
1 保険の分類
保険業法では、図表1のように保険を生命保険固有分野(いわゆる第一分野の保険)、損害保険固有分野(いわゆる第二分野の保険)、生命保険・損害保険のどちらともいえない分野(第三分野の保険)として、三つに大別しています。
(1) 「生命保険」とは、人の生存または死亡に関してあらかじめ約定された金額を支払う保険のことで、生命保険会社のみが引き受けることができます。
(2) 「損害保険」とは、一定の偶然な事故によって生じた損害額に応じて保険金を支払う保険のことで、損害保険会社のみが引き受けることができます。
(3) 「第三分野の保険」とは、生命保険、損害保険のいずれにも当てはまらない保険のことをいい、生命保険会社、損害保険会社の双方で取り扱うことができる保険です。
具体的には、「傷害保険」や「医療保険」などがあります。
2 分類別特徴
(1) 保険金の支払い
① 定額払い
あらかじめ約定された金額を支払う方式で、値段を付けることができない人体に関する生命保険、傷害保険、医療保険等に適用されています。
② 実損払い
実際に被った損害額を支払う方式で、損害保険は、損害により不当な利益を得ること(いわゆる焼け太り)を防ぐという考え方に基づいています。
(2) 兼営禁止
生命保険会社と損害保険会社は第一分野の保険と第二分野の保険を兼営することが認められていませんが、第三分野の保険はそれぞれ引き受けることができます。
(3) 第三分野の保険の分類
保険金の支払い方法により二つに区分しています。
具体的には、ケガや病気による入院・通院等のために実際に支出した費用を補償する「傷害疾病損害保険契約」、ケガや病気によって入院・通院等をした場合に契約時に定めた一定額を支払う「傷害疾病定額保険契約」として区分けしています。
以上から、保険業法では、図表2のように「損害保険契約」「傷害疾病損害保険契約」「生命保険契約」「傷害疾病定額保険契約」の四種類に保険を分類し、それぞれの契約関係で規定しています。
Ⅱ 保険金と税金
1 生命保険と税金
満期・死亡保険金を受け取った場合は、所得税、相続税、贈与税のうちいずれかの課税が行われますが、誰が保険料を負担し、誰が保険金を受け取ったか、また、被保険者は誰なのかによって図表3のようになります。
2 損害保険と税金
(1) 非課税
事故により支払われる図表4の保険金は、所得税法上、非課税となります。
(2) 課税
死亡保険金については、図表5のように相続税や贈与税等が課税されます。
(参考・日本損害保険協会HP)
岩井事務所だより5月号は「ふるさと納税のポイント」です。
ふるさと納税については、「制度の仕組みがよくわからない」と利用を躊躇している人も見受けられます。そこで今回は、ふるさと納税の活用のポイントを整理してみます。
Ⅰ 個人のふるさと納税
1 制度創設の趣旨
多くの人が地方のふるさとに生まれ、その自治体から医療や教育など様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に都会に生活の場を移し、そこで納税をしています。そのため、都会の自治体の税収は増えますが、生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。
そこで、「今は都会の住人となっても自分を育ててくれた『ふるさと』に自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、発展してきたのが、ふるさと納税制度です。
2 制度の概要
(1) 控除の概要とイメージ(図表1参照)
(2) 手続
① 原則
控除を受けるためには、ふるさと納税をした翌年に、確定申告を行う必要があります。
② 特例
確定申告が不要な給与所得者等については、ふるさと納税先の自治体数が5団体以内の場合に限り、ふるさと納税を行う際にあらかじめその自治体に申請することにより確定申告が不要となる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が平成27年4月から始まっています。
(3) ふるさとの概念
自分の生まれ故郷や応援したい自治体など、どの自治体に対する寄附でも対象となります。
(4)適用時期
いつでもふるさと納税を行うことができます。
ただし、税の軽減については、1月から12月の暦年単位となります。
Ⅱ 企業版ふるさと納税
自治体が行う地方創生を推進する上で効果の高い一定の事業に対して法人が行う寄附について、従来の自治体に対する寄附金の損金算入措置に加えて、法人税、法人事業税・法人住民税の税額控除措置が適用されます。これにより、寄附金額の約6割の負担が軽減されます(図表2参照)
岩井事務所だより4月号は「国税の加算税制度の見直し」です。
平成28年度税制改正で見直しが行われた国税の加算税制度が、本年1月から適用されていますので、確認も兼ねてポイントを説明します。
1 事前通知後の修正申告等に係る加算税の見直し
実地調査に際し、税務署等から調査に関する一定の事項の通知(事前通知)があった場合に、事前通知以後の修正申告又は期限後申告書の提出に対して、加算税が課される措置が新たに設けられました。
一定の事項とは、①実地調査を行う旨、②調査の対象となる税目、③調査の対象となる期間、の3項目です。
従来、事前通知の直後に多額の修正申告等を行い、加算税の賦課を回避している事例が顕著だったため措置されたもので、当初申告のコンプライアンス(法令順守)を高める観点から表1のとおり改正されています。
2 短期間での無申告又は仮装・隠蔽行為の反復に対する加算税の加重措置の導入
改正前の加算税率は、「無申告又は仮装・隠蔽」が行われた回数にかかわらず一律であったため、意図的に「無申告又は仮装・隠蔽」を繰り返す者に対する牽制効果は限定的で小さい状況にありました。
そこで、悪質な行為を防止する観点から、過去五年以内に無申告加算税又は重加算税を賦課された者から、再び「無申告又は仮装・隠蔽」に基づく修正申告書の提出等があった場合に、加算税を10%加重する措置が講じられています(表1参照)。
3 脱税・過少申告・無申告・租税回避行為・節税の違い
いずれも税負担の軽減を図る行為ですが、表2のような違いがあります。
岩井事務所だより3月号は「平成29年度税制改正(案)のポイント」です。
平成29年度税制改正(案)では、配偶者控除の見直しをはじめ、「経済再生なくして財政健全化なし」の基本方針の下、各種の施策が講じられています。
主な改正項目のポイントを整理してみます。
Ⅰ 個人所得課税
1 配偶者控除
控除対象配偶者又は老人控除対象配偶者を有する居住者について適用する配偶者控除の額は、図表1のとおりとなります。
なお、合計所得金額が1000万円(年収1220万円) を超える居住者については、配偶者控除の適用はありません。
2 配偶者特別控除
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額を38万円超123万円以下(現行38万円超76万円未満)とし、控除額は図表2のとおり。
これにより、「103万円の壁」と呼ばれていた収入額が、150万円まで拡大されます。
3 積立型NISA
株等への投資で得た利益を一定の条件で非課税とするNISAについて、積立方式の新制度が設けられます(図表3参照)。
4 医療費控除
確定申告時に医療費控除を受けるために提出していた領収書が医療費の明細書又は医薬品購入費の明細書に変更されます。
Ⅱ 資産課税
1 タワーマンション対応
新築のタワーマンションにかかる固定資産税が見直されます(図表4参照)。
2 相続税又は贈与税の納税義務の見直し
国際的な課税逃れを防止するため、海外移住した者同士(親子)が海外資産を相続・贈与する場合、移住後10年以内は日本で課税できるようになります。
3 取引相場のない株式の評価の見直し
株式の評価方法の一つである「類似業種比準方式」が見直されます。
4 広大地評価の見直し
現行の「面積比例減額方法」から土地の個性に応ずる方法に見直されます。
Ⅲ 法人課税
賃上げ促進税制の見直し
賃上げした企業の法人税負担を軽くする「所得拡大促進税制」が図表5のとおり見直されます。
Ⅳ 消費課税
1 酒税改革
ビールや発泡酒などの種類によって異なっていたビール系飲料の税率は、平成32年から38年にかけて段階的に統一されます。
2 免税品
国内の空港に到着した海外旅行者が、入国手続き前に免税品を買うことができるようになります。
岩井事務所だより2月号は「平成28年分確定申告のポイント」です。
本年も所得税の確定申告時期となりました。還付申告は、既に一月から始まっていますが、納付額のある人については、二月十六日から三月十五日までとなります。
以下、平成二十八年分確定申告のポイントを整理してみます。
1 確定申告の対象者
●確定申告をしなければならない人
(主な例)
① 個人で事業を行っており納税額がある
② 不動産収入があり納税額がある
③ 給与が年間二千万円を超える
④ 二か所以上から給与をもらっている
⑤ 同族会社の役員等で、その会社に不動産や事業資金を貸し付け、使用料・利息等を受け取っている
⑥ 平成二十八年中に土地等の譲渡があった
⑦ 給与所得者で給与以外の所得金額が二〇万円を超える
●所得税の還付を受けられる人
(主な例)
雑損控除、医療費控除、寄附金控除、配当控除、住宅ローン控除を受ける人
2 平成二十八年分確定申告の主な留意点
(1) 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の創設
相続開始直前において、被相続人のみが居住の用に供していた家屋を相続した相続人が、その家屋(耐震性のない場合は耐震リフォームをしたものに限り、その敷地を含みます)又は家屋除却後の土地を相続時から三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までに譲渡した場合には、その家屋又は除却後の土地の譲渡益から三千万円を控除することができます。
この制度は、平成二十八年四月一日以後の譲渡から適用されています。
(2) 住宅の多世帯同居改修工事等に係る特例の創設
平成二十八年四月一日から、自己の有する家屋に多世帯同居改修工事を行った場合に、次の①又は②の特例を適用することができます。
対象となる工事は、キッチン・浴室・トイレ又は玄関のうち少なくとも一つを増設し、いずれか二つ以上が複数箇所になる工事です。
① ローン型減税
多世帯同居改修工事を含む増改築工事に係る住宅借入金等(償還期間五年以上)の年末残高一千万円以下の部分について、一定割合を乗じた金額を五年間の各年において所得税額から控除
② 投資型減税
多世帯同居改修工事の標準的な費用の額の一〇%相当額をその年分の所得税額から控除
岩井事務所だより1月号は「各種法定調書の作成」です。
毎年一月になると、源泉徴収票や各種支払調書の作成・交付・税務署への提出、給与支払報告書の各市町村への送付等、他の月にはない業務が多くなります。
加えて本年からマイナンバーの記載が始まるため実務処理の負担も増え、様式のサイズが変更されたものもあります。
そこで、これら一月固有の業務のポイントについて整理してみます。
Ⅰ 法定調書
法定調書には多くの種類がありますが、そのうち一般的なものについてポイントを整理すると次のようになります。これらは、一月末までに所轄税務署長に提出する必要があります。
1 給与所得の源泉徴収票
【税務署提出を要する範囲】
・年末調整をした者
(1)法人(人格のない社団等を含みます)の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、相談役、顧問等である者)及び現に役員をしていなくても平成28年中に役員であった者
平成28年中の給与等の支払金額が150万円を超えるもの
(2)弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、弁理士、海事代理士、建築士等(所得税法第204条第1項第2号に規定する者)
平成28年中の給与等の支払金額が250万円を超えるもの
(3)上記(1)及び(2)以外の者
平成28年中の給与等の支払金額が500万円を超えるもの
・年末調整をしなかった者
(4)「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した者
イ.平成28年中に退職した者、災害により被害を受けたため、平成28年中の給与所得に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収の猶予又は還付を受けた者
平成28年中の給与等の支払金額が250万円を超えるもの。ただし、法人の役員の場合には50万円を超えるもの
ロ.平成28年中に主たる給与等の金額が2,000万円を超えるため、年末調整をしなかった者
全部
(5)「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しなかった者(給与所得の源泉徴収税額表の月額表又は日額表の乙欄若しくは丙欄適用者等)
平成28年中の給与等の支払金額が50万円を超えるもの
なお、「給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)」は、提出範囲にかかわらず、すべての受給者について作成の上、一月末日までにそれぞれの受給者に交付することになっています。なお、受給者交付用へのマイナンバー記載はしません。
また、給与支払報告書と同時に作成できるように、四枚又は三枚複写となっています。
2 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
【税務署提出を要する範囲】
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の提出範囲は、平成二十八年中に支払が確定した退職手当等の受給者が、法人(人格のない社団等を含みます)の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、相談役、顧問等)であった者です。
なお、「退職所得の源泉徴収票」は、提出範囲にかかわらず、退職後一か月以内にすべての受給者に交付することになっています。
3 報酬・料金・契約金及び賞金の支払調書
【税務署提出を要する範囲】
平成二十八年中に講演料や外交員報酬など所得税法第二〇四条第一項等に規定する報酬・料金等を支払った者は、同一人に対する支払金額の合計が一定額を超える場合に提出します。
4 不動産の使用料等の支払調書
(1)提出義務者
平成二十八年中に不動産、不動産の上に存する権利、総トン数二〇トン以上の船舶・航空機の借受けの対価等を支払った法人や不動産業者である個人。
(2)支払調書の提出範囲
同一人に対する平成二十八年中の支払金額の合計が一五万円を超えるもの。
なお、法人に支払われる不動産の使用料等については、地上権、不動産等の賃借権、その他土地の上に存する権利の設定による対価がない場合には、提出は不要です(主に個人の不動産所得のチェックに使われるためです)。
Ⅱ 給与支払報告書
給与支払事業者は、住民税の特別徴収の資料とするために、一月末日までに受給者の一月一日現在居住する市町村長宛に「給与支払報告書」(源泉徴収票と複写で書けるもの二枚)と総括表を提出する必要があります。
岩井事務所だより12月号は「平成28年分 年末調整のポイント」です。
年末調整は、給与の支払者が給与の支払いを受ける一人一人について、毎月の給与や賞与などの支払の際に源泉徴収した税額と、その年の給与の総額について、納めなければならない税額(年税額)とを比べて、過不足を精算するものです。
◎ 平成二十八年分の留意点
⑴ 通勤手当の非課税限度額
平成二十八年一月一日以後に支払われるべき通勤手当の非課税限度額が月額十万円から十五万円に引き上げられました。
平成二十八年四月の非課税限度額改正前に支払われた通勤手当については、改正前の非課税規定を適用したところで所得税及び復興特別所得税の源泉徴収が行われていますが、改正後の非課税規定を適用した場合に過納となる税額は、本年の年末調整の際に精算する必要があります。
既に支払われた通勤手当が改正前の非課税限度額以下である人については、この精算の手続は不要です。年の中途に退職した人など本年の年末調整の際に精算する機会のない人については、確定申告で精算することになります。
⑵ マイナンバーの収集登録
今年の年末調整はマイナンバー対応が必要です。平成二十八年分の源泉徴収票や支払調書にはマイナンバーを記載しなければなりません。
マイナンバーを取得する際は、正しい番号であることの確認(番号確認)と身元確認が必要とされています。
本人確認は、原則として、
①個人番号カード(番号確認と身元確認)
②通知カード(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
③個人番号の記載された住民票の写しなど(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
のいずれかの方法で行います。
ただし、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかに判断できるときは身元確認のための書類の提示は不要とすることも認められています。
※従業員の扶養家族については、従業員が事業主に対してその扶養家族のマイナンバーの提供を行うこととされているため、従業員は個人番号関係事務実施者として、その扶養家族の本人確認を行う必要があります。この場合、事業主が、扶養家族の本人確認を行う必要はありません。
岩井事務所だより11月号は「税務調査のポイント」です。
事業者の法人税・所得税は、納税者自身が管轄の税務署へ申告を行い税額を確定させ、この税額を自ら納付する申告納税制度が採用されています。しかし、誤った申告があると納税者間に課税の不公平が生じるため、税務調査による納税義務の適正な履行が必要となります。
この趣旨を理解して、次に掲げる〝税務調査ポイント〟の指摘を受けないように適正な申告納税に努めましょう。
Ⅰ 主要な税務調査ポイント
事業者を対象とした税務調査で指摘される課税漏れの原因は、大きく「売上除外」「棚卸除外」「経費の仮装」に集約されると言われています。具体的には、以下の項目がチェックされます。
なお、これらが故意に行われたものかどうかを判別し、仮装・隠ぺいされた事実が明らかな場合には、国税通則法第六十八条に定める重加算税の対象となります。
① 現金管理状況
現金出納帳と実際の現金残高が一致しているか、どんぶり勘定になっていないか。
どんぶり勘定が必ず引き起こすものは「勘定合って銭足らず」です。法人の場合、現金不足は役員賞与と認定されることもあるので要注意です。
② 現金の流れと管理状況
どのような取引先からどのような方法で受発注し、納品、決済しているか。特に「どうやって受注し、どうやって商品やサービスを提供し、どうやって入金するか」といったお金の流れは深く質問されます。
取引の把握漏れがないように自主点検をしましょう。
③ 売上繰り延べ
税務上、売上の計上時期は原則として「商品を引き渡したとき」や「サービスを提供したとき」となっており、「入金時」や「請求書発行時」ではありません。この点を誤ると「売上計上漏れ」で追徴税額が生じます。
④ 自家消費分の計上漏れ
自家用に使える商品を消費した場合、その分の売上計上が漏れていないか。特に飲食業や工務店等は注意が必要です。
⑤ 棚卸計上漏れ
棚卸在庫を過小に見積もっていないか。そのための帳票類を誤っていないか。
在庫商品では、期末の在庫を減らせばその分利益が減るため、調査時に重要視されます。期末一カ月以内くらいに仕入れた全商品が、どうなっているかをサンプリングして追跡調査する手法で確認されます。
⑥ 帳票類の整合性
見積書、請求書、納品書、領収書がすべて揃っているか。不自然な日付や金額の記載がないか。自然な流れで恣意的な操作の可能性がチェックされます。
⑦ 修繕費と資本的支出との区分
多額の修繕費が計上されている場合、「原状回復」を超えて対象物の価値が増していないか。ここは、判断の難しい問題です。
⑧ 私的費用の経費計上
事業と関係のない、代表者の私的な費用を計上していないか。
個人的な支出と判断された場合には、その支出が社長への役員賞与とされ全額経費に計上できなくなるばかりか、社長の役員賞与に対する源泉所得税の徴収漏れの扱いとなり、二重課税されます。
さらに、交際費として消費税の課税仕入れとなっていたものも、賞与扱いにより仕入税額控除が認められず、その分の消費税を支払うことになります。
⑨ 代表者による不正蓄財
代表者が、本人または家族の名義で不正な蓄財を行っていないか。会社の調査でも不審なケースがある場合は、個人の預貯金まで調べられます。
⑩ 人件費の管理状況
従業員の源泉徴収漏れや、架空の人件費計上はないか。
特に給料を現金で支給していたり、履歴書を保存していなかったりすると疑いを持たれますので、しっかり管理しましょう。
⑪ 消費税の課税仕入額
消費税の課税仕入額に非課税分が含まれていないか。
また、書類の保存がない場合にも仕入税額控除が受けられないので、保存状況も確認しておきましょう。
⑫ 消費税の不正還付
虚偽の申告により、不正な消費税の還付を受けていないか。
⑬ 収入印紙の未貼付
収入印紙の貼り忘れなどによって、印紙税の未納付はないか。
印紙税をその課税文書作成時までに納付しなかった場合には、過怠税がかかります。その金額は、原則としてその納付すべき印紙税額の三倍( 最低額一千円)とされています。
ただし、自主的にその不納付を申し出るなど一定の要件を満たせば、不納付税額の一・一倍とされます。また、消印をしなかった場合にも、印紙税額と同額の過怠税が徴収されます。
なお、印紙税は原則、税法上の費用(損金)となりますが、過怠税は費用とすることができませんので、注意が必要です。
Ⅱ 最近の税務調査の傾向
国税庁では近年、実地調査に当たって、「海外取引」「消費税」「無所得申告」「無申告」の四つについて、重点的に取り組んでいるようです。
① 海外取引を通じて不正に税逃れが行われないようにする。
② 消費税については、不正還付等がないように厳しく管理をする。
③ 無所得申告については、調査の七割から申告漏れが把握されたという実績もあり、調査対象とする。
④ 無申告法人については、重点的に取組む。
また、電子メールのやり取りも税務調査の対象となっていますので、留意しておきましょう。
岩井事務所だより10月号は「名義預金に関するポイント整理」です。
最近の相続税の税務調査事績によれば、申告漏れ相続財産の金額のうち、六割弱を現金・預貯金及び有価証券が占めています。
このことから、相続税の税務調査では金融資産への対応が中心となっており、被相続人名義の預貯金や株式ではなくても、名義預金等として課税修正されるケースが多いようです。そこで今回は、トラブル防止のため、名義預金に関してポイントを整理してみます。
1.家族名義の預貯金等
(1)名義預金等とは
形式的に配偶者や子・孫などの名前で預金しているものの、収入等から考えれば、実質的には真の所有者は別、すなわち、親族の名義を借りているのに過ぎない預貯金をいいます。
名義は被相続人でなくても、実質的に被相続人に係る預貯金と認められるものは、被相続人の相続財産とされます。このような名義預金のほか、株式についても同様に名義株式とされるものがあります。
(2)贈与の成立要件
贈与税の課税対象とされる贈与には、①民法上の贈与(非課税とされるものを除きます)、②相続税法上の独自の観点から設けられたみなし贈与(例えば、生命保険金の受取り等)の二種類があります。
民法上の贈与については、民法五四九条で「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託をすることによってその効力を生ずる」と規定されています。
このことから、贈与者による贈与の意思表示と受贈者による受贈の意思表示をもって成立する契約(諾成契約)行為であることが特徴であり、贈与者による一方的な意思表示のみでは民法上の贈与は成立しないことになります。
贈与による財産の取得の時期は、次のようになっています。
〇書面による贈与・・・その契約の効力が発生した時
〇口頭による贈与・・・その履行の時
〇停止条件付の贈与・・・その条件が成就した時
ただし、その贈与の時期が明確でないときは、その所有権等の移転の登記又は登録があった時とされます。
例えば、父が子名義で毎年預金をしていても、その預金の存在をその子が知らない場合には、受贈者(子)による受贈の意思表示がないことから、民法上の贈与としての諾成契約は成立していないことになり、贈与は成立していないと考えられます。
そのため、子名義の預金が行われて何年経過していても、民法上の贈与が行われていない以上、税務上も贈与は成立していないことになります。
(3)名義預金の判定基準
相続税の調査の際、特に問題となることの多い名義預金の判定基準は、以下のとおりです。
①使用印鑑
家族名義の預金の印鑑がすべて同一であり、しかも通常被相続人が自分の預金に使用しているものと同じである場
合には、名義借りの可能性が高くなります。
②受取利息
家族名義の預金の利息を被相続人名義の預金等に入金し、被相続人が費消していると認められる場合には、名義借り
の可能性が高くなります。
③保管(管理)状況
預金通帳や証書等を誰が保管(管理)していたかで、名義人の判断材料とされます。
例えば、被相続人がすべて自分で管理しており、名義人はそのような預金があることさえ知らなかったような場合
には、当然名義借りと見られます。
④贈与税の申告の有無
贈与税の申告がない場合は、名義借りと判断される可能性が高くなります。
2.預金の把握のされ方
前記したように、家族の名義になっているものが名義預金に該当し相続財産に含まれる場合、相続人の多くは抵抗します。しかし、課税の公平の見地から、税務当局による以下のような厳しいチェックがありますので十分に理解して正しい申告納税に努めましょう。
(1)預金の把握
税務調査前に必ず被相続人はもちろん家族全員の預金まで調べられます。
(2)家族名義の預金
被相続人以外の家族名義の預金は、本当に家族の預金かどうか確認されます。つまり名義預金かどうかのチェックです。家族の収入、財産形成の経緯を徹底的に調査し、例えば、配偶者の預金については、配偶者の過去の収入、実家における相続の有無等によって、本当に配偶者の預金であるかどうかを調査されます。
子や孫の預金も、当然、それぞれの収入等から本人のものであるかどうか確認されます。
(3)預金の引き出しをチェック
大口の預金の引き出しは必ずチェックされます。例えば、定期預金の引出し、株式や土地の売却代金の引出しがあれば、その行方が確認されます。
この引き出されたお金が、何らかの預金になっているか、または何を購入しているかが確認されます。
借入金の使用目的も問われます。借入金で株式の購入、建物の建築、土地の購入、または貸付金になっているケースなど、いずれにしても大口のお金の移動は確認されます。
(4)何年前まで調べられるのか
大型の相続であれば、相当以前から古い資料も残っています。時効の関係から不正があった場合は七年ですが、通常は五年前まで調べられます。
問題は、何年前から名義が本人以外のものになっていたとしても、贈与の事実確認が重要で、贈与税の申告がされていたかどうかがポイントになります。
(5)死亡日前の預金の引き出し
相続税は、死亡日の被相続人の財産に課税されます。したがって、死亡日前に被相続人の預金を引き出してしまえば消えてなくなり、課税されないと考える人が多いのですが、これは全く無意味なことです。
預金の把握は、死亡日の当日だけを調査するのではありません。被相続人はもちろん、家族名義の預金も最低五年くらい前から調べられます。まして、死亡日直前に預金が引き出された場合、当然そのお金が、何に使われたのかがチェックされます。
病院への支払い、葬儀の費用、物品の購入と、支払いの使途が明確であれば問題にはなりません。したがって、直前引き出し分で死亡日の残高は、現金(直前引出分)として計上し、その後支払う葬儀費用や債務はそれぞれ計上して明確に処理することが大切です。
岩井事務所だより9月号は「マイナンバー関係改正Q&A」です。
平成二十八年度税制改正では、マイナンバーの記載に係る本人確認手続やマイナンバー記載書類の管理負担の軽減を目的に、マイナンバーの記載を不要とする書類の見直しが行われています。
1 金融機関手続の簡素化
Q1.マイナンバーを告知済の金融機関で口座開設を行う場合には、改めてマイナンバーを告知することは不要になったようですが、他にも不要になる手続きはありますか。
A1.個人が次に掲げる告知又は告知書の提出をする場合に、金融機関が、その個人のマイナンバー等を記載した帳簿を備えているときは、告知又は告知書にマイナンバーの記載をしなくてもよいこととされました。
○利子・配当等の受領者の告知
○無記名公社債の利子等に係る告知書の提出
○譲渡性預金の譲渡等に関する告知書の提出
○株式等の譲渡の対価の受領者の告知
○交付金銭等の受領者の告知
○償還金等の受領者の告知
○信託受益権の譲渡の対価の受領者の告知
○先物取引の差金等決済をする者の告知
○金地金等の譲渡の対価の受領者の告知
○特定口座開設届出書の提出をする者の告知
○非課税適用確認書の交付申請書の提出をする者の告知
○非課税口座開設届出書の提出をする者の告知
○未成年者非課税適用確認書の交付申請書の提出をする者の告知
○未成年者口座開設届出書の提出をする者の告知
○国外送金等をする者の告知書の提出
○国外証券移管等をする者の告知書の提出
2 マイナンバー記載の対象書類の見直し
Q2.マイナンバーを記載する書類が見直されたとのことですが、具体的に教えてください。
A2.
〈国税〉
マイナンバーを記載しなければならないとされている申告書及び調書等を除く税務関係書類のうち、次に掲げる書類について、提出者等のマイナンバーの記載が必要なくなりました。
(1) 申告書等の主たる手続と併せて提出され、又は申告書等の後に関連して提出されると考えられる書類
(2) 税務署長等には提出されない書類で、提出者等のマイナンバーの記載を要しないこととした場合であっても所得把握の適正化・効率化を損なわないと考えられる書類
(3) 勤務先に対して次に掲げる申告書を提出する場合、その勤務先等が過去に提出を受けた扶養控除等申告書等に基づきその従業員等のマイナンバーを管理しているときは、二回目以降に提出する扶養控除等申告書等にはマイナンバーの記載をしなくてもよいことになりました。
① 給与所得者の扶養控除等申告書
② 従たる給与についての扶養控除等申告書
③ 退職所得の受給に関する申告書
④ 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
〈地方税〉
地方税についても、国税における手続と一体的に行われるものについては、国税と同時期に適用されます。
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